2025年、ベトナムのGDP成長率は8.0%に達し、ASEAN(東南アジア諸国連合)で最も高い成長を記録した。同年10月にはFTSE Russell(英国の主要株価指数算出機関)がベトナムを「フロンティア市場」から「セカンダリー新興国市場」へ格上げすることを正式に発表し、2026年9月に発効予定だ。一方、インドは2025/26年度に実質GDP成長率6.5〜7%を維持し、JPモルガンは2025/26年のMSCIインド銘柄の利益成長率を13〜16%と予測している。この2カ国は、高成長を享受しながら収益化を狙う日本人投資家にとって最注目の市場となっている。本記事では、ベトナム・インドを中心とした新興国高成長投資の手法を、リスクリターン別に体系的に解説する。
ベトナム・インドが注目される理由:経済成長の背景と現状
ベトナム:FTSE格上げで世界マネーが流入する歴史的転換点
ベトナムは2025年、GDP成長率8.0%(前年比)という驚異的な数字を叩き出し、東南アジア最速の経済成長国となった。VN指数(ベトナムの主要株価指数)は2025年に57.7%の価格リターンを記録し、アジア新興国市場のなかでも突出したパフォーマンスを示した。
この好調を後押しするのが、2025年10月7日に発表されたFTSE Russellによる「フロンティア市場→セカンダリー新興国市場」への格上げ決定だ。この格上げにより、世界中の新興国ETFや機関投資家ファンドがベトナム株を組み込むことが義務付けられる可能性があり、数十億ドル規模の新規資金流入が見込まれている。
格上げの背景にあるのは、ベトナム政府が進めてきた一連の市場改革だ。主な改革内容は以下の通りだ。
- 事前資金拘束の廃止(2024年11月):外国投資家が株式取引前に全額を預け入れる義務がなくなり、資金効率が大幅に改善した
- KRX取引プラットフォームの稼働(2025年5月):韓国取引所と共同開発した最新システムが導入され、デリバティブ取引や清算機能が強化された
- 外国人株主上限の撤廃(2025年9月):企業が独自に設けていた外国人株式保有上限の恣意的な制限が禁止された
- 英語開示の義務化:VN30構成銘柄(上位30社)は2025年1月から英語での情報開示が必須となり、2026年末までに全上場企業約2,000社に拡大予定
ベトナムは「チャイナプラスワン(中国一極集中を避けるための製造拠点分散先)」としての存在感も高まっており、LGやサムスンなど韓国大手、日系企業も積極的に製造拠点を設けている。輸出額は2025年に前年比14.8%増の2,624億ドルに達し、タイを抜いて東南アジア最大の電子機器輸出国となった。
インド:「6D」が支える構造的成長ストーリー
インドは2026年度においても実質GDP成長率6.5〜7%を維持すると予測されており、G20諸国のなかで最も安定した高成長国として評価されている。GDP全体の約70%を占める国内消費が成長エンジンとなっており、中間層の拡大と所得水準の向上が消費を底上げしている。
投資家の間では「6Dのインド」という表現が広がっている。需要(Demand)、発展(Development)、人口動態(Demography)、デジタル化(Digitalization)、規制緩和(Deregulation)、民主主義(Democracy)の6つの要素が、インドの長期成長を構造的に支えているという概念だ。
デジタル経済の成長は特に目覚ましく、2022年のGMV(流通取引総額)230億ドルから2025年には490億ドルに拡大した。マイクロソフトは今後4年間でインドに175億ドル、アマゾンは350億ドルの追加投資を発表しており、インドのクラウド・AIインフラへの世界的な需要が加速している。
株式市場については、NIFTY 50指数は2025年に約10%の上昇を記録。ジェフリーズはNIFTY 50が2026年末までに28,300に達すると予想しており、国内の個人投資家によるSIP(積立投資)が市場の安定した買い手として機能している。
新興国高成長投資:リスクリターン別の主要手法
高成長新興国への投資には、リスクとリターンのトレードオフが異なる複数のアプローチが存在する。以下では、低リスクから高リスクの順に主要な投資手法を解説する。
【低リスク】広域新興国ETFでの分散投資
想定リターン:年率5〜10% リスク:中〜低
最もリスクが低く、初心者にも適した手法が、複数の新興国に分散投資する広域新興国ETF(上場投資信託)への投資だ。代表的な商品としては以下が挙げられる。
- iShares MSCI Emerging Markets ETF(EEM):運用資産250億ドル超。中国・インド・台湾・韓国など24カ国に分散。経費率0.68%
- Vanguard FTSE Emerging Markets ETF(VWO):低コストが強み。経費率0.08%。2026年9月以降はベトナムの新興国指数組み入れに伴いベトナム株も加わる見込み
- iShares MSCI India ETF(INDA):インド専用ETF。運用資産94億ドル(2025年末時点)。流動性が高く日本の証券会社でも取引可能
- Franklin FTSE India ETF(FLIN):低コストのインド専用ETF。経費率0.19%で長期保有に適している
広域新興国ETFは、個別国リスクを軽減できる反面、中国など大型経済圏の比率が高くなる傾向がある。インドやベトナムへの集中投資を望む場合は、個別国ETFと組み合わせる戦略が有効だ。
日本の投資家は、楽天証券・SBI証券・マネックス証券などで米国上場ETFを円換算で購入できる。為替(ドル円)リスクは残るが、ヘッジ付き商品も一部選択可能だ。
【中リスク】単一国ETF・インデックスファンド
想定リターン:年率8〜18%(ただし変動幅大) リスク:中〜高
ベトナムやインドという特定の高成長国に集中投資する手法だ。分散効果は低下するが、その国の成長をより直接的に収益化できる。
ベトナム専用ETFの主な選択肢は以下の通りだ。
- VanEck Vietnam ETF(VNM):米国上場の代表的なベトナムETF。VN指数連動ではなく、ベトナム事業を持つ企業も組み込む
- KraneShares FTSE Emerging Markets Plus ETF(KPHO):ベトナムへの集中露出が可能なETF。2026年時点のP/E(株価収益率)は平均9.7倍と割安。ドラゴンキャピタルが16〜18%の2026年利益成長を予測している
インド専用ETF・ファンドについては、前述のINDAやFLINのほか、以下も注目だ。
- WisdomTree India Earnings Fund(EPI):利益加重型のインデックスファンドで、バリュエーション(割安度)を重視した銘柄選択
- VanEck India Growth Leaders ETF(GLIN):成長性と割安感を兼ね備えた銘柄を選定するアクティブ運用型ETF
- VanEck Digital India ETF(DGIN):インドのデジタル化に関連する企業に特化。高い成長性が期待できる一方、テクノロジーセクター集中リスクあり
日本国内の投資信託でも、インド株ファンドが急速に普及している。楽天・SBI・三菱UFJなどが取り扱うインド株ファンドは、円建てで積立投資でき、NISAの成長投資枠も活用できる。ただしベトナム専用の日本国内ファンドはまだ少なく、米国上場ETFを外国株口座で購入する必要がある場合が多い。
【高リスク】個別株投資・現地証券口座
想定リターン:年率20%超も可能 リスク:高
より高いリターンを狙う場合は、現地市場に上場した個別株への直接投資という選択肢がある。ただし、言語の壁・税制・規制リスク・流動性リスクが高まるため、上級者向けの手法だ。
ベトナム個別株の場合、VN30指数の主要構成銘柄(ビングループ、バオベット証券、ビエティンバンクなど)への投資が考えられる。現地証券会社に口座を開設するか、VNDirect・SSI証券のような現地業者の国際口座を利用する方法がある。英語開示義務化により、情報収集のハードルは以前より下がっている。
インド個別株については、インドの証券市場(NSE・BSE)に直接投資するためにはインド国内の証券口座(Zerodha・Growwなど)が必要となり、外国人投資家向けのFPI(外国ポートフォリオ投資家)登録も求められるケースがある。一方、NSE・BSEのADR(米国預託証券)やGDR(グローバル預託証券)を通じた投資は比較的容易だ。注目セクターとしては、インフラ・銀行・IT・防衛・自動車が挙げられる。
【ハイリスク・ハイリターン】テーマ型戦略と特定セクター集中投資
想定リターン:個別銘柄で数倍も可能 リスク:非常に高
新興国の成長をさらに高い倍率で享受しようとするなら、特定のテーマや成長セクターに集中投資する方法がある。
ベトナムのテーマ投資で注目されるのは、デジタル経済関連だ。ベトナムのデジタル経済GMVは2025年に490億ドルを超えており、eコマース・フィンテック・デジタルインフラへの需要が拡大している。また、製造業高度化(半導体・電子部品)や不動産(FTSE格上げによる外国人需要増)も関心が高い。
インドのテーマ投資では、以下のセクターが2025〜2026年に特に高いリターンを出した。
- 公共セクター銀行(PSU銀行):2025年に約29%上昇。政府の銀行統合計画や信用成長が追い風
- 金属・資源:2025年に約22%上昇。グローバルな商品サイクルと国内需要が牽引
- 自動車:2025年に約21%上昇。GST(物品サービス税)引き下げと生産補助が恩恵
- 防衛・航空宇宙:自国製造推進(アトマニルバール)政策の下、HAL・BEL・BDLなどが大型受注を獲得
テーマ投資はリターンが大きい反面、テーマが逆風に転じた場合の損失も大きい。ポートフォリオ全体の一部(5〜10%程度)として位置付け、コア投資(広域ETF)の補完として活用するのが賢明だ。
リスクを正しく理解する:新興国投資の主なデメリット
高い期待リターンの裏側には、先進国投資とは異なるリスクが存在する。投資判断を下す前に、以下の点を十分に理解しておきたい。
為替リスク:円高・現地通貨安のダブル打撃
ベトナムドン・インドルピーはいずれも米ドルに対して長期的な下落傾向を示す局面があり、現地通貨での利益が円換算では目減りする可能性がある。特に円高局面では、同じ10%の現地リターンが円ベースではマイナスになることもある。ETF投資の場合は米ドル建て商品が多いため、ドル円レートの変動もリターンに影響する。為替ヘッジ付きの商品を選ぶことで対策可能だが、ヘッジコストが生じる点には注意が必要だ。
政治・規制リスク:突然の政策転換に要注意
新興国では政権交代や突発的な規制変更が起きやすい。ベトナムでは不動産開発大手ノバランドによる社債不正使用問題が表面化し、株式市場に短期的な悪影響を与えた。インドでは米国との関税交渉が不透明なまま推移しており、貿易摩擦が企業収益を下押しするリスクがある。政治的な安定性は高いものの、外資規制の変化や税制改正が事業環境を一変させることもある。
流動性リスク:売りたいときに売れない可能性
現地株や一部の小型ETFは取引量が少なく、大きなポジションを持った場合に売却しにくくなることがある。ベトナム株は外国人の持株比率が依然として制限されているケースがあり、需給の偏りが生じやすい。米国上場の主要ETF(VNM・INDAなど)はリアルタイムで売買できるが、現地口座を通じた直接投資ではより厳しい流動性制約に直面する可能性がある。
バリュエーションリスク:「成長の先食い」に注意
高成長が既に株価に織り込まれている場合、期待通りの成長が実現しても株価が上がらない「期待外れ」が起きる。インド株はP/E(株価収益率)が過去に比べ割高な時期があり、外国人投資家が2025年に約180億ドルもの資金を引き揚げた局面もあった。ベトナムについても、FTSE格上げ発表後のVN指数上昇が「先食い」になっている可能性があり、格上げ実施後の利益確定売りには注意が必要だ。
日本人投資家への具体的な活用法と示唆
NISA・iDeCoとの組み合わせ
2024年から拡充された新NISAは、成長投資枠(年240万円)で外国株ETFや海外株ファンドを購入できる。インド株インデックスファンドや新興国ETFはNISA対応商品が増えており、非課税メリットを最大限に活かせる。iDeCo(個人型確定拠出年金)でも新興国株ファンドを選択できる商品があり、長期積立との相性が良い。
コア・サテライト戦略での位置付け
新興国高成長株はリスクが高いため、ポートフォリオ全体の「サテライト(衛星)ポジション」として位置付けるのが一般的だ。例えば、コア部分(ポートフォリオの60〜70%)を全世界株式や先進国株ETFで構成し、サテライト部分(20〜30%)をインド株・ベトナム株ETFに、残り(10%以下)を個別株やテーマ型ETFに配分する、といった組み合わせが考えられる。
日本からアクセスできる主要商品まとめ
日本の証券会社から購入しやすい主要商品を以下にまとめる。
- SBI証券・楽天証券:米国上場のVNM(ベトナムETF)、INDA(インドETF)、EEM(新興国広域ETF)をドル建てで購入可能
- インド株投信(国内):「SBI・iシェアーズ・インド株式インデックス・ファンド」「eMAXIS Slim 新興国株式インデックス」など、円建ての積立投資が可能な投信が多数ある
- ベトナム株投信:国内では「One-ベトナム株式ファンド」(大和アセットマネジメント)などが選択肢として挙げられる。ただし本数・流動性ともにインド株より限定的
なお、現地口座を開設してベトナムや インドの株式に直接投資する場合は、確定申告(外国税額控除の適用含む)が必要になる。税務面での複雑さを考慮すると、特に投資初心者は国内証券会社経由の取引から始めることを推奨する。
まとめ:2026年の新興国高成長投資をどう攻略するか
ベトナムとインドを中心とした高成長新興国への投資は、日本人投資家にとって円安・低金利環境のもとで資産を増やす有力な選択肢となっている。本記事のポイントを以下に整理する。
- ベトナムは2026年9月のFTSE新興国指数組み入れを控え、新規資金流入の波が期待される歴史的転換点にある
- インドはGDP成長率6.5〜7%を維持し、デジタル・製造業・消費が成長の三本柱。2026年は企業収益の回復が見込まれる
- 低リスク派には広域新興国ETF、中リスク派には単一国ETF・国内インド株投信、高リスク・高リターン狙いには個別株・テーマ型ETFという段階的なアプローチが有効だ
- 為替リスク・政治リスク・流動性リスク・バリュエーションリスクを十分に理解した上で、ポートフォリオ全体の許容リスク範囲内で投資することが重要だ
- 新NISAの成長投資枠・iDeCoを活用することで税効率を高め、長期の積立投資スタンスを維持することが成功の鍵となる
高成長国への投資は短期的な変動が大きい。「経済成長=株価上昇」とは限らないことを念頭に置きながら、長期・分散・積立の原則に従って取り組んでほしい。
参照・出典
- Vietnam: The ASEAN Powerhouse — LSEG / FTSE Russell
- Vietnam Reclassified to Emerging Market Status by FTSE Russell — Vietnam Briefing
- What is the outlook for India’s stock market? — J.P. Morgan
- Here’s Why 2026 Could Be a Breakout Year for India ETFs — Yahoo Finance / Zacks
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📝 編集者の視点(元機関投資家アナリストより)
ベトナム・インドはともに成長ストーリーが明確な市場ですが、筆者が機関投資家時代から一貫して重視するのは「バリュエーションと流動性のバランス」です。高成長期待が先行すると割高水準で購入することになりかねない。個人投資家としては、現地個別株より新興国ETF(VWO・EEMなど)を通じた分散アクセスが現実的で、ポートフォリオの10〜15%程度のサテライト枠として機能させています。FTSE・MSCIのインデックス格上げイベントは短期的なフロー流入を引き起こすため、そのタイミングを意識することも有効です。
本記事は情報提供のみを目的として作成されており、特定の金融商品への投資を勧誘・推奨するものではありません。
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